観世流能「邯鄲」を鑑賞
東京支部謡曲同好会
 
 東京支部謡曲同好会では211()午後1時より第11回「国立能楽堂で能を鑑賞する会」を開催いたしました。当日はお天気にも恵まれ16名の方が参加し鑑賞会は午後4時頃に盛会裏に終了しました。その後全員で記念撮影の後、散会致しました。
当日の模様は伊藤卓爾さんより別記の鑑賞記を寄せていただきましたのでご覧
ください。
 当日の普及公演の番組及び内容は次の通りでした。
解説・能楽あんない 「哲学的に人生を考える能」 林 望 (作家・書誌学者)
狂 言 「花折」 シテ 新発意  佐藤 融(和泉流)
   寺で桜の見張りをしていた新発意は、外から聞こえてくる花見客の楽しげな声に
   我慢ができず
・・・
「邯鄲」 シテ 盧 生   岡 久広(観世流)
      悩める青年・盧生の悟り
   古の中国。青年・盧生は、邯鄲の宿で不思議な枕を借り眠ると夢の中で栄華の極みを
   体験します。そして夢から覚めた盧生は・・・。「一炊の夢」の故事にちなむ作品です。
 
 参加者全員記念写真
後列  岩木・伊藤・新井・水沢・池田・中村・井村・池田夫人
中列  水沢夫人・森・鈴木夫人・塩浜夫人・三木
前列   布施木・後藤・沖   の皆さん      (敬称略) 
 
12回は平成25223()の普及公演観世流能「菊慈童」を予定しています。
ご期待ください。
池田  記        
 
   「扇子で二回敲こう」
伊 藤 卓 爾   
 もう恒例になった謡曲同好会の池田恒甫さんから案内を頂く、国立能楽堂の能鑑賞会である。今回は「能 邯鄲」。

皆さんご存知の、邯鄲の里の宿で、これで寝ると悟りが開けるという枕で、盧生が休む。と、使いが来て楚の王様に迎え

られ栄耀栄華を極めた五十年を過ごした。と思ったら、それは夢で粟飯を炊く間のことであった、という「一炊の夢」。

 
林望さん(肩書きは作家・書誌学者、沖賢也さんの後輩という)の『荘子』にある元の話にあわせて、この能の仕草や

道具立ての解説がよかった。現実の世界から夢の世界へ、そしてまた現実に、と、「移る」ことをどのように表現するの

だろうと、好奇心の第一はそれであった。林さんは仮設建物といって笑わせたが、広さ一畳・厚さ四寸位の床、人が立て

る高さの屋根つき四本柱組み立て式の「作り物」が、邯鄲の宿であり、宮殿となる。

 邯鄲の宿では、その中で観客側に置いた角枕にシテが頭をつける。ここから夢ですよ、というのは、扇子で「作り物」

の床を実際に二回敲く。それが約束事だという。勅命の使者が来て、二回敲く。夢の中で、王様をお迎えする輿は、金色

のものではあるが担架である。乗せるには小さいがどうするのかと思っていると、ナント、頭の上に翳して舞台中央一回

りで、戻った。戻った「作り物」は宮殿の玉座であった。角枕は玉座にはすでに無かった。シテ盧生の衣装は、もともと

華やかであったが、羽織のようなものを右半分だけ脱いだ形に収めると下の衣装で一層華やかな彩となる、それが王様で

ある。笛・鼓・太鼓・謡で音曲を盛り上げ、童舞から盧生の舞の絶頂。これを超えると突然バタバタと童や高官が、とい

っても四人だが、退場し、王様は大急ぎで「作り物」に帰り、角枕に頭をつける、最初のように。宿の女主人がきて扇子


で二回床を敲く。食事ができたと告げる


 五十年の間、栄華の時を過ごした意識と、一睡(一炊)の時間と、いずれが真実か、というのが老荘思想だが、仏教で

は一睡の時間に立っているのであろうか。よく分からない。シテの盧生の舞も大変な舞だと思うが、笛・太鼓の方は一時

間二十五分囃子詰めだから同情する。念のため終盤にきて疲れただろうと笛の吹く時間呼気を試みたが続かない。また、

その息継ぎ時間の短いこと、コンマ三秒もあるのか知らん。不思議な業だ。と、妙なところで感心した。

 損保の謡は百回の発表会で幕を閉じた。長い間指導された鈴木一夫さんが亡くなられた。三周忌もすでに過ぎた鹽浜武

也さんの奥さんにも挨拶できた。能鑑賞会後、布施木新さんら同好会の皆さんの恒例反省会にも参加できた。感傷的では

なく鑑賞会は続くだろうということであった。昨秋、ぼくは、草枕の一節から、籚雪が厳島神社に奉納した山姥(やまん

)の絵について、駄文を書いたが、その図は能の山姥に由来する。それはさらに、能の百万山姥、更に猿楽に由来する

。草枕からふと関心が及んだのも、謡の会に繋がるご縁であった。この二十五日に「能 百万」があると聴いて早速切符

を買った、正面席の、を。これも縁である。

 記憶と忘却の間を行ったり来たりしているが、お互い元気で、「扇子で二回敲く」ゆとりは持ちたいものである。
 (二〇一二・二・一三了)
 
 最後までご覧いただき有難うございました。
 写真の提供は三木さんでした。
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